アラブと日本とは基本的に文化が違う。国が違うのだから、当たり前です。アラブ世界でよく聞くセリフがあります。当初はどう受け取っていいのか分からずに非常に戸惑いました。アラブ世界に住む人なら一度ならず聞いたことがあるはず、このセリフ。
「あなたは私の家族の一員だ!」
「僕たちは兄弟だ!」
「僕のことを大きなお兄さんと思ってくれ!」
などなど…これはアラブがしょっちゅう口にするセリフです。初対面でもこんな風に言われます。困るのがビジネス・シーンでこう言われること。よくあるんですよね~。日本では基本的に「公私混同」は非とされています。仕事とプライベートは別であるべきもの。
ところがアラブ世界は「公私混同」の最たるもの。ビジネスとプライベートは手と手を取り合っていくべきもの。でも、ビジネス・シーンで「君は家族だ!」「僕を大きなお兄さんと思ってくれ」などといわれると、日本人としての感覚では思わず引いてしまう。( ゚Д゚)
「君は家族だーーー!」などといわれると、「え…それって、なーなーの仲になって仕事も適当にするっていう意味ちゃうん?」とか「アラブのお兄さんなんかいらんねん。私が望むのは、仕事だけきっちりしてくれることや」などと心で色々突っ込んでしまう。
相手には私の心が読めませんから、ニコニコニコニコと満面の笑顔で「何でも相談してくれー。頼ってくれー」と自信満々で嬉しそう。「いやいや、仕事だけシッカリしてくれたらいいんや~。それ以上は何も求めてへん~」「言葉は要らん! 仕事ができることを実証せい、実証!」という私の叫びが通じるわけもありません。
ちなみにこいう対応は、特にヨルダン人とパレスチナ人に多い。今まで色々な国の旅行会社と取引してきましたが、エジプト人やサウジアラビア人はもう少し冷静だった気がします。ま、サウジアラビア人はツアー業界そのものに新しいので、自分たち流のビジネスがまだ確立されていない感もあります。いずれにしても、ヨルダン人やパレスチナ人とのビジネス交渉は相手のノリが良いので、結構うまく行くように思えます。でもノリがいいだけなので、実際は山あり谷ありです。
フリーの会計士として働いている私の友達のお父さんがいます。このお父さん、マダバ出身のバリバリのヨルダン人。ドラえもんのような顔で、いつも満面の笑顔。人が良い典型的なアラブ。このお父さん、数年前に仕事を失うという危機に瀕したことがありました。私の日本人の友達が奔走して、韓国人のビジネスマンが会計士を探しているという話をゲット。お父さん、専属の会計士となることになりました。
韓国人のビジネスマンは、中東でビジネスを展開している寡黙な男性。でもヨルダンでのビジネスには四苦八苦しています。ヨルダン人のビジネス・パートナーにも裏切られており、人をなかなか信用することが難しい。というか、そんなに簡単に人を信用しないのが普通ですが。
このお父さん、初対面のこのビジネスマンに「いやぁ、あなたは私の家族ですから、安心してください!!」と自信満々に請け合いました。これを聞いた時、私は日本人の友達と「いらんことゆうて。そんなこと言わんでもいいんや。そんなことをアジア人に言ったら逆効果で怪しまれるだけやのにな」とひとしきりブツブツ言ったのを覚えています。
私も中東で仕事をするようになり、このセリフを聞くことが多くなりました。アラブが「君は家族だ~」という時はまず鵜呑みにしないことが一番。「家族やゆうたのに無責任な!」「アンタ、そんなこと自分の家族にほんまにしてるんか?」と思うようなことはしょっちゅう生じます。人によって意味合いは多少違うと思いますが、非常に端的に言うと、これは単に「これからよろしくお願いします」と言っているだけに過ぎず、本当に責任を取るとか、自分の身を犠牲にしても親身になるという意味では決してないことが多い。
それからアラブ社会で問題が一番起きているのは家族間です。お金に関わる問題も家族内でしょっちゅう起きています。だからそんなアラブが「君は家族だ」「僕は君のお兄さん」と言っても説得力がないのも事実。
とはいえ、アラブは嘘を言っているわけではありません。本当に一皮も二皮も脱ごうとしてくれる (ここがポイントなのであります。「脱ぐ」のではなく、「脱ごう」としてくれる訳です) アラブもいます。ただしアラブは基本的に自分中心なので、彼らのしてくれることが私たちの希望とズレていることもしばしば。ですから、アラブのこのセリフには、「よろしくね」という意味合い以外に特に深い意味はない、と受け止めておいたほうが良い、というのが私の結論。
ま、そんな訳で、アラブとの仕事はかなりクールにこなしています。「家族だ」といわれても、プライベートでは決して電話しませんし、頼ることも一切ありません。ビジネスはビジネス、プライベートはプライベート、とはっきり分ける。
相手はきっと不思議に思っているかもしれませんが、ある程度の「壁」を作っておくというのが私のモットーです。一線を引かないと、どこまでも踏み込んでくるのがアラブですから。単純なのか深遠なのか分からないのがアラブ社会なのであります。
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